【クリックすると拡大されます】
第18回 家族信託と空き家問題
空き家問題って?
今回は、家族信託と空き家問題についてお話しします。
空き家問題なら聞いたことがあります。住人が不在で放置されている家の問題ですよね。
そのとおりです。総務省の発表によると、平成30年の全国の空き家数は846万戸となっており、これは総住宅数の13.6%を占めています。
いずれの数値も年々増加の一途をたどっており、今後ますます空き家の数は増加すると予想されています。
7、8戸に1戸は空き家ってことなのね。
空き家が増えている原因
空き家が増加している原因には様々なものがあるのですが、ここでは以下の二つをあげたいと思います。
①所有者の高齢化
日本人の平均寿命は年々高くなっていますが、一方で健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)はさほど延びていません。
つまり「平均寿命と健康寿命の差が広がっている⇒日常生活が制限される期間が増加している」ということがいえるんです。
このため、高齢となった所有者の入所・入院等により、自宅が空き家になり、さらに所有者が認知症などで意思能力を失ってしまうと、売却などの処分もできなくなります。
②相続問題で家の承継者が決まらない
遺産分割協議がまとまらず、自宅が放置されているという状態です。とりわけ築年数の古い建物の場合、固定資産税や管理費の負担を嫌がり、相続人の誰もが承継したがらない、ということもあります。
空き家のリスクと空き家法
一般的に、空き家には次のようなリスク・問題点があるとされます。
①管理の費用や手間がかかる
②防犯上の問題が発生する
③相続人が増えると、売却の同意がとりづらくなる
このようなリスクが社会問題化していたこともあり、2015年に空家等対策の推進に関する特別措置法、いわゆる「空き家法」が施行され、国による対策が本格化しました。
この法律を簡単にご説明すると、
①「倒壊の危険性」「衛生面の悪影響」「管理が不十分で周囲の景観を損ねる」「周辺の生活環境を著しく乱す」など、安全・衛生・景観・治安面で問題のある空き家が「特定空家」と指定される可能性がある
②「特定空家」には、行政による助言・指導・勧告・命令が行われる。命令違反には50万円以下の過料
③命令後に改善が見られない場合には行政が所有者に代わり対処し、費用は所有者に請求される(行政代執行)
という流れで運用がなされます。
最悪の場合、放置した空き家は解体されて、しかもその費用は所有者が支払う、ということね…。
はい。ここまで見てきたように、空き家の問題は身近で深刻なものなんです。そのため、将来自宅が空き家になるおそれがある方は、事前の対策が必要ということですね。
家族信託による空き家問題対策
ここでようやく本題の、家族信託を活用した空き家問題対策についてです。
ここまで見てきたように、空き家問題の主な原因は「①所有者の高齢化」と「②相続問題」です。
これは、裏を返せば
①所有者が高齢になっても(判断能力が低下しても)家の管理ができるようにしておく
②家の承継先を指定しておく
ことで回避できる、といえます。
これらが可能な制度といえば…そう、家族信託ですよね。
家族信託では、
「所有者本人に代わり財産管理ができる」
「何世代先へも承継先を指定できる」
という特徴があります。(それぞれの特長については過去の説明箇所をご確認ください)
まさに、空き家問題対策としてはうってつけの制度だと思います。
空き家問題対策には家族信託のメリットがそのまま活かせるんですね。
家族信託を利用した空き家対策の例
家族信託を利用した空き家対策の具体例をご紹介します。
①は所有者の高齢化リスク・認知症リスクを見据えた対策です。所有者である母にもしものことがあっても、子が代わりに自宅を処分できるため、空き家になるリスクを防ぐことが可能です。
②は承継先を見据えた対策です。特に、先祖代々受け継いできた実家を自分の家系に承継させたい、といった場合に有効です。
事例の場合、夫→妻の順で亡くなると自宅は義理の妹が相続することになりますが、義理の妹は別に家を所有しているため、夫婦の自宅は空き家になるリスクがあります。
これを防ぐためには、妻に「自宅を甥に相続させる」旨の遺言を書いてもらう必要がありますが、妻が認知症になり遺言を作れなくなったり、翻意する可能性もゼロではありません。
そこで、受益者連続型の家族信託を活用することで、最終的には自分の家系である甥へ自宅を承継させることが可能です。
また甥が自宅を管理するため、夫婦の負担を軽減することもできます。
今回のまとめ
2033年には全国の空き家率が30%近くになるという、民間の試算もあります。空き家問題対策としての家族信託には、ますます注目が集まるのではないでしょうか!
※本記事は掲載当時の法令等に基づき作成しております。また実際の金融機関等の対応は、個別事情などにより異なるケースがあります。